はじめに
「経営改善計画書を作ってほしい」という相談は、会計事務所にとって今や珍しくない依頼になっています。コロナ融資(ゼロゼロ融資)の返済が本格化し、金融機関との折衝や借換え交渉を必要とする顧問先が増えているからです。
しかし、実際に計画書を作ろうとすると、「何を書けばよいのか」「数値はどこまで書き込むべきか」「国の支援制度はどう使うのか」といった疑問がすぐに出てきます。
この記事では、経営改善計画書に必要な項目と書き方を整理し、中小企業庁が設ける支援制度(405事業・早期経営改善計画策定支援)との関係も含めて解説します。会計事務所の所長・経営者が、顧問先への財務支援をサービスとして提供するための判断軸としてお読みください。
経営改善計画書とは何か
経営改善計画書とは、資金繰りや収益性が悪化している企業が、金融機関や支援機関に対して「現状の課題」「改善策」「数値目標」を示す文書です。
金融機関は、この計画書をもとに「この企業は返済できるか」「支援する価値があるか」を判断します。そのため、経営者の意欲だけを書いた文章では不十分で、根拠のある数値計画と具体的な行動計画の両方が求められます。
経営改善計画書の基本構成と各項目の書き方
1. 企業概要・事業概要
まず、金融機関の担当者が事業全体を把握できるよう、業種・業歴・主要顧客・取扱商品やサービスの概要を簡潔に記載します。
書き方のポイント:
- 売上高の主な構成(例:製造業で自社ブランド60%、OEM40%など)
- 取引先の分散状況(特定顧客への依存度が高い場合はリスクとして言及)
- 強みと弱みを客観的に整理するSWOT分析(Strengths:強み、Weaknesses:弱み、Opportunities:機会、Threats:脅威)を簡略版で添付するのも有効
2. 現状分析:財務数値の整理
過去3期分の財務諸表(貸借対照表・損益計算書・キャッシュフロー計算書)をもとに、現状を数値で示します。
主なチェック指標の例:
- 債務超過額(純資産がマイナスの状態)の有無と規模
- 営業キャッシュフローがプラスかマイナスか
- 有利子負債のEBITDA倍率(EBITDAとは:税引前利益に支払利息・減価償却費を加えた利益指標。返済能力の目安として使われる)
仮の例として: 売上高2億円、営業利益が▲500万円、借入残高8,000万円という状況であれば、有利子負債のEBITDA倍率は金融機関が「要注意」と判断する水準に近い可能性があります(あくまで一般的な目安であり、業種や金融機関ごとに異なります)。
会計事務所の職員が会計データを集計・整理する工数は、ここが最も大きくなりがちです。事務所としては、このフェーズを標準化することで、計画書作成にかかる工数と品質のばらつきを管理することが採算上の重要課題になります。
3. 課題の特定
現状分析から導かれる「なぜ業績が悪化したか」を整理します。
よくある課題の類型:
- 売上の減少(顧客離れ・市場縮小・競合激化)
- 原価率の悪化(材料費高騰・外注費増加)
- 固定費の過大(人件費・賃借料)
- 運転資本の膨張(売掛金回収の長期化・在庫増加)
課題の特定は、後の改善策・数値計画と一貫している必要があります。「売上減少が課題」と書きながら、改善策がコスト削減だけでは計画に整合性がなく、金融機関の信頼を得にくくなります。
4. 改善策の立案
課題に対して、具体的な改善アクションを記載します。
書き方のポイント:
- 誰が、いつまでに、何をするかを明示する
- 「売上を増やす」ではなく「既存顧客への訪問頻度を週1回から2回に増やし、追加発注の獲得を狙う(担当:営業部長、開始:○年○月)」のように具体化する
- 実現可能性に疑問を感じさせる数値目標(例:前年比200%の売上増)は避ける
5. 数値計画(アクションプラン付き収支計画)
金融機関が最も重視するのがここです。向こう3〜5年の損益計画・資金繰り計画・返済計画を作成します。
作成時の留意点:
- 売上高の根拠を示す(単価×数量×顧客数など積み上げで示す)
- 費用は固定費・変動費を分けて整理する
- 毎月の資金繰り表(キャッシュフロー)を月次で作成し、返済の蓋然性を示す
- 計画未達の場合のシナリオ(感度分析)があると信頼度が増す
国の支援制度:405事業と早期経営改善計画策定支援
405事業(経営改善計画策定支援事業)
「405事業」は、中小企業庁が設ける制度で、認定支援機関(税理士・中小企業診断士等)が関与して経営改善計画を策定・実行支援する場合に、費用の一部を補助する仕組みです(正式名称:経営改善計画策定支援事業。利用には中小企業活性化協議会への申請が必要)。
- 補助上限:計画策定費用の3分の2(上限200万円)
- 対象:金融機関支援(リスケジュール等)を受けている、または受ける予定の中小企業・小規模事業者
会計事務所が認定支援機関として関与することで、顧問先への財務支援を「費用を補助しながら提供できる」ことがサービス上の強みになります。
早期経営改善計画策定支援(ポスタリング事業)
業績悪化がまだ深刻でない段階(リスケジュール前)での支援制度です。
- 補助:費用の3分の2(上限20万円)
- 主な目的:資金繰り管理や採算管理の習慣化
比較的簡易な計画書で申請できるため、悪化予兆がある顧問先への早期介入ツールとして会計事務所が活用しやすい制度です。予防的な財務支援をサービスメニューとして設計する際の入口として位置づけることができます。
会計事務所が計画書支援を「サービス」にするための視点
経営改善計画書の作成支援は、工数が大きく、かつ責任も伴う仕事です。事務所として以下の点を整理しておくことが、採算あるサービス設計につながります。
1. テンプレートと作業フローの標準化
どの職員が担当しても一定品質の計画書が作れるよう、現状分析・計画作成・数値確認のステップを明文化します。
2. 顧問先の財務データへのアクセス効率化
計画書作成で最も時間がかかるのは、財務データの収集・整形です。会計ソフトから直接データを取り込める仕組みがあると工数を大幅に削減できます。
たとえば、SCORE AIのような事務所経営・業務管理と顧問先への財務支援を一体で扱うツールを活用することで、複数の会計ソフトからのデータ連携や、業務の進捗管理を効率化できる可能性があります。ただし、具体的な効果は事務所の業務環境や運用によって異なります。
3. 支援制度の活用を前提にした料金設定
405事業の補助を使う場合、顧問先の自己負担が3分の1になるため、料金提示のハードルが下がります。「補助ありで○万円、なしで○万円」という形で選択肢を示すと、顧問先が依頼しやすくなります。
まとめ
経営改善計画書は、「現状分析→課題特定→改善策→数値計画」という一貫した流れで作成することが、金融機関に伝わる計画書の基本です。
会計事務所にとって、この支援は単なる書類作成にとどまらず、顧問先の経営を伴走する財務支援そのものです。405事業や早期経営改善計画の制度を組み合わせることで、顧問先の費用負担を抑えながら継続的な支援サービスとして提供できます。
計画書作成の工数管理・テンプレート整備・データ連携の効率化を進めることが、事務所として採算の合う財務支援サービスを設計する第一歩になります。まずは自事務所の現状の対応フローを棚卸しするところから始めてみてください。