はじめに

「うちの会社は黒字なのに、なぜ融資が通らないのか」

顧問先からこうした相談を受けたことがある会計事務所の先生方は多いはずです。逆に、「業績が厳しい時期でも、スムーズに融資を引き出せた」という経営者も存在します。この差はどこにあるのでしょうか。

銀行の融資担当者は、決算書のあらゆる箇所に目を光らせています。単なる黒字・赤字の判断にとどまらず、数字の「質」と「背景」を読み取ろうとしています。本稿では、銀行が融資審査で重視する7つの視点を整理し、会計事務所が顧問先に提供できる財務支援の実務ポイントを解説します。


銀行融資審査で見られる7つのポイント

1. 債務超過になっていないか

債務超過とは、負債の合計が資産の合計を上回っている状態です。貸借対照表(B/S)の純資産がマイナスになっている場合がこれに該当します。

銀行にとって債務超過は「融資した元本が返ってこないリスクが高い」シグナルであり、多くの金融機関では融資を否決する基準のひとつとしています。仮に顧問先が債務超過に陥っている場合、まず「どの資産が過大評価されていないか」「含み損はないか」を精査し、実態純資産を把握することが先決です。


2. 借入金の返済能力(債務償還年数)

債務償還年数とは、「借入残高 ÷ キャッシュフロー(税引後利益+減価償却費)」で求める指標です。この年数が長いほど、銀行は「返済に時間がかかる先」と評価します。

一般的に10年以内が正常、15年超になると要注意とされます(金融機関・格付けによって異なります)。

黒字であっても、過去に多額の設備投資を行い借入残高が膨らんでいる場合、この指標が悪化します。決算書の「利益」だけを見て安心している顧問先には、この概念を伝えることが重要です。


3. 役員貸付金・仮払金の存在

貸借対照表の資産の部に役員貸付金や仮払金が多額に計上されていると、銀行の評価は著しく下がります。

理由は明確です。「会社の資金が経営者個人に流れている」と判断されるためです。銀行はこれを「実質的な利益流出」と見なし、その金額分を資産から除外して実態の純資産を計算することもあります。

仮の例を挙げると、純資産が2,000万円あっても役員貸付金が1,500万円あれば、実態純資産は500万円と判断されるケースがあります。決算前に貸付金を精算・解消しておくことが、審査対策として有効です。


4. 在庫・売掛金の実態(資産の質)

資産の部に計上されている棚卸資産(在庫)や売掛金が、本当に換金できる価値を持っているかどうかも審査の焦点です。

長期滞留在庫や回収見込みのない売掛金(不良債権)が含まれている場合、実態の資産価値は帳簿より低くなります。銀行はこれを「粉飾の温床」として警戒します。

会計事務所として、決算書の数字が実態を反映しているかを顧問先と一緒に確認することが、信頼性向上につながります。


5. 利益の質——本業で稼いでいるか

損益計算書(P/L)の営業利益がプラスかどうかは、融資審査の基本チェック項目です。

本業の儲けを示す営業利益が赤字で、不動産売却益などの特別利益で最終黒字を確保しているケースは、「一時的な黒字」として銀行には評価されません。継続的に本業で利益を生み出せているかが問われます。

また、売上が増加していても、売上総利益率(粗利率)が低下傾向にある場合も要注意です。「なぜ粗利率が下がっているのか」を説明できる根拠があるかどうかが、担当者との交渉において重要になります。


6. キャッシュフローの状況

利益が出ていても、資金繰りが苦しい会社は存在します。銀行が重視するのはキャッシュフロー計算書(または簡易的なキャッシュフロー)の状況です。

特に「営業キャッシュフローがマイナス」の状態が続いている場合、銀行は本業での資金流出が続いていると判断します。売掛金の回収サイト(回収にかかる日数)や買掛金の支払いサイトのバランスも、運転資金の必要性を説明する際の根拠になります。

キャッシュフロー計算書の作成・解説を顧問サービスに組み込むことは、顧問先の財務リテラシー向上と、事務所の付加価値向上の両面で意義があります。


7. 自己資本比率と財務の安定性

自己資本比率(純資産 ÷ 総資産)は、財務の安定性を示す基本指標です。一般的に20〜30%以上あると安定的とされますが、業種によって適正水準は異なります。

この比率が低い場合、「他人資本(借入)への依存度が高い」と判断され、追加融資のハードルが上がります。毎期の利益を内部留保として積み上げ、自己資本を厚くしていくことが長期的な融資戦略の基本です。


決算前にできる対策——会計事務所が果たせる役割

上記の7つのポイントを踏まえると、会計事務所が顧問先に対してできることは「決算書を作る」だけにとどまりません。

  • 決算3ヵ月前からの着地予測と対策提案
  • 役員貸付金・仮払金の精算スケジュール確認
  • 不良在庫・不良債権の洗い出し支援
  • キャッシュフロー計算書の提供と説明
  • 融資相談前の財務資料の整備サポート

これらを体系的にサービス化することで、顧問料の引き上げや付加価値型サービスへの移行が現実的になります。特に、中小企業が銀行交渉の場に持参する「決算説明資料」の作成支援は、専門家としての差別化ポイントになります。

ただし、こうした財務支援業務を拡充するには、事務所内の工数管理と顧問先ごとの採算把握が不可欠です。どの顧問先にどれだけの時間を使っているか、財務支援の業務量が適切に請求に反映されているかを可視化することが、サービス設計の前提となります。

SCORE AIは、事務所の業務管理と顧問先への財務支援を一体として扱えるアプリです。会話操作による業務管理や、会計ソフトとの自動連携など、事務所全体の業務効率化を支援する機能を備えています。財務支援サービスの拡充を検討する際の基盤ツールとして、ご活用を検討いただけます。


まとめ

銀行の融資審査で見られる決算書のポイントを7つに整理しました。

チェック項目 銀行が警戒するサイン
純資産・債務超過 純資産がマイナス
債務償還年数 15年超
役員貸付金 多額の貸付が長期滞留
資産の質 不良在庫・回収不能売掛金
利益の質 本業赤字・特別利益依存
キャッシュフロー 営業CFの継続マイナス
自己資本比率 業種水準を大きく下回る

決算書は「過去の記録」ですが、それを読み解く力と、次の決算に向けた改善提案こそが、会計事務所の専門家としての真の価値です。融資審査を通過できる財務体質づくりに伴走できる事務所は、顧問先からの信頼を長期にわたって獲得し続けることができます。

顧問先の財務支援を「決算書の作成」から「経営判断の支援」へと進化させるための第一歩として、本稿の7つの視点をぜひ実務に活かしてください。