会計不正の7割に経営幹部が関与——中小企業が今すぐ見直すべき内部統制の実態

はじめに:他人事では済まされない「会計不正」の現実

「うちは小さな会社だから関係ない」——そう思っていませんか?

日本公認会計士協会(JICPA)が公表したレポートによると、2025年3月期までの5年間に発覚・公表された会計不正は184件にのぼります。そのうち実に約7割(約129件)で、役員や管理職が主体的に関与していたことが明らかになりました。

つまり、会計不正は現場の担当者が単独でこっそり行うケースよりも、経営トップや幹部自身が主導・黙認しているケースの方がはるかに多いという厳しい現実があります。これは上場企業だけの問題ではありません。中小企業においても、経営者が関与した横領・粉飾決算の事例は後を絶たず、発覚した際には企業存続を揺るがす深刻なダメージをもたらします。

本記事では、会計不正の実態データを読み解きながら、中小企業経営者・実務担当者が今すぐ取り組むべき予防策と内部統制の考え方を解説します。


会計不正の「7割が経営幹部関与」が意味すること

データから見える構造的問題

JICPAのレポートが示す「役員・管理職が7割」という数字は、単なる統計以上の意味を持っています。

通常、不正リスクを語る際には「不正のトライアングル」という概念が使われます。これは米国の犯罪学者ドナルド・クレッシーが提唱した理論で、不正は以下の3要素が揃ったときに発生するとされます。

  1. 動機(Pressure):業績プレッシャー、個人的な財務困難など
  2. 機会(Opportunity):内部統制の欠陥、チェック機能の不在など
  3. 正当化(Rationalization):「一時的なものだから」「会社のためだ」という自己弁護

役員・管理職が関与するケースが多い理由は明確です。彼らは「機会」と「正当化」の両方を自ら生み出せる立場にあるからです。承認権限を持ち、内部統制の設計にも携わる経営幹部は、チェック機能を意図的に形骸化させることができます。

主な不正の類型

JICPAのデータを踏まえると、会計不正の主な類型は以下の通りです。

不正の種類 内容 主な関与者
売上の過大計上 架空売上の計上、前倒し計上 役員・営業管理職
費用の隠蔽 損失の先送り、費用の資産計上 役員・経理担当
横領・着服 会社資金の私的流用 経営者・経理担当
循環取引 実態のない取引を複数社間で繰り返す 役員・取引先

中小企業で特に多いのは横領・着服売上・利益の水増し(粉飾決算)です。粉飾決算は金融機関からの融資を維持・拡大するために行われるケースが多く、発覚すると融資の一括返済を求められるリスクがあります。


中小企業で会計不正が起きやすい構造的な理由

経営者への権限集中という「諸刃の剣」

中小企業の強みの一つは、経営者がスピーディに意思決定できることです。しかし、この権限集中がそのまま内部統制上の最大の弱点にもなります。

多くの中小企業では、以下のような状況が日常的に見られます。

  • 経営者が銀行口座の管理と支払承認を一人で行っている
  • 経理担当が一人しかおらず、自己チェックが発生している
  • 月次の試算表を経営者しか確認していない
  • 外部の顧問税理士が関与するのは決算期だけ

これらはいずれも「職務の分離」が機能していない状態です。職務の分離とは、取引の承認・実行・記録・照合を複数の担当者に分けることで不正の機会を減らす、内部統制の基本原則です。

「信頼」が内部統制を代替してしまう問題

「長年一緒にやってきた社員だから」「家族が経理をやっているから安心」——こうした人的な信頼関係が、制度的なチェック機能の代替になってしまうことがあります。

実際、中小企業における経理担当者による横領事件の多くは、10年以上勤務する「信頼できるベテラン社員」によって行われています。信頼は大切ですが、それを内部統制の代わりにすることは経営リスクです。


実務担当者・経営者が今すぐ実践できる5つの対策

① 出納(すいとう)管理の分離を徹底する

支払いの「承認者」と「実行者」を必ず分けましょう。経営者が承認し、経理担当が振込を行う、あるいはその逆でも構いません。一人の人間が承認から実行まで完結できる体制は不正の温床です。

小規模企業であれば、経営者自身がインターネットバンキングの入出金明細を毎月確認するだけでも、一定の抑止効果があります。

② 月次試算表を「複数の目」で確認する

顧問税理士や外部の専門家に月次試算表のレビューを依頼することを検討してください。異常値(前月比で大きく増減した勘定科目など)を定期的にチェックする仕組みを作ることが重要です。

具体的には、以下の数字を毎月確認するだけでリスクを大幅に低減できます。

  • 売掛金の回収状況:長期未回収は架空売上のサインになることがある
  • 仮払金・立替金の残高:精算されないまま残る金額がないか
  • 現金残高と帳簿の一致:定期的な実査(実物の確認)を行う

③ 領収書・請求書の二重チェック体制を構築する

支払いが発生する際、経理担当者以外の人間(経営者や別部署の管理職)が原始証憑(げんしぼうひょう)(領収書・請求書などの取引の証拠となる書類)を確認する体制を作りましょう。

「架空の外注費」「実態のない交際費」など、経費科目を悪用した不正を防ぐ最も基本的な手段です。

④ 内部通報窓口を設ける

不正を最初に察知するのは現場の従業員であることが多いです。しかし「言いにくい雰囲気」や「報復への恐れ」から通報されないケースが多数あります。

中小企業でも、外部の弁護士や税理士を通報窓口として設定することで、匿名での通報が可能な環境を比較的低コストで整備できます。2022年に改正された公益通報者保護法では、従業員300人超の事業者に対して内部通報体制の整備が義務化されましたが、中小企業も任意で導入する価値は十分あります。

⑤ 経営者自身のモニタリングを外部に委ねる

役員・管理職が不正の7割に関与しているという事実は、「経営者自身をチェックする仕組み」が最も重要であることを示しています。

中小企業においては、顧問税理士・顧問弁護士・社外取締役(または監査役)に対して、経営者の承認案件についても定期的な報告と質問の機会を与えることが有効です。「社長に何でも聞ける雰囲気」を外部専門家との間で作ることが、抑止力として機能します。


まとめ:「うちは大丈夫」という思い込みを手放そう

会計不正の7割に経営幹部が関与しているという事実は、「性善説だけでは会社は守れない」ということを示しています。これは従業員を疑えということではなく、仕組みとして不正が起きにくい環境を作ることが経営者の責任だということです。

中小企業における内部統制の整備は、大企業のように大掛かりなシステムを必要としません。まずは以下の3点から始めましょう。

  • 出納管理の分離(承認者と実行者を分ける)
  • 月次試算表の複数確認(外部専門家を巻き込む)
  • 領収書・請求書の二重チェック(経費の透明化)

会計不正は、一度発覚すると取引先・金融機関・従業員からの信頼を根底から損ないます。予防のコストは、事後対応のコストと比べれば圧倒的に小さいものです。今日から「仕組み」づくりに着手することが、企業を守る最善の経営判断といえるでしょう。


本記事は日本公認会計士協会の公表資料および各種統計データをもとに、一般的な情報提供を目的として執筆しています。個別の会計・法律上の判断については、専門家にご相談ください。